ABSTRACT 69(3)
GST-π特異的阻害剤によるaberrant crypt foci (ACF) 形成の抑制効果ー胆汁酸誘導アポトーシスとの関連ー:大井雅夫、高山哲治、信岡 純、宮西浩嗣、新津洋司郎(札幌医科大学第4内科)
An inhibitory effect of GST-π specific inhibitor for formation of aberrant crypt foci(ACF):Motoo OHI,Tetsuji TAKAYAMA,Atsushi NOBUOKA,Kouji MIYANISHI,Yoshiro NIITSU(4thdept.of Int.Med.,Sapporo Medical University.)
【目的】大腸癌のプロモーターである二次胆汁酸は、近年種々の細胞にアポトーシスを誘導することが報告されている。我々はこれまで、大腸腺腫及び癌、さらに腺腫の前病変であるACFにおいて既にGlutathione S-Transferase (GST) -πの発現が高いことを報告した。さらに、このようなGST-πの発現がras変異により誘導されることを明らかにした。GST-πは一部の胆汁酸と結合することも報告されていることから、大腸癌発癌の早期より重要な役割を果たしていることが推定される。そこで本研究では、GST-π阻害剤により二次胆汁酸により誘導されるアポトーシスがどのように変化するのか、またラットモデルを用いてGST-π阻害剤のACF形成に及ぼす効果を検討した。【方法】正常2倍体細胞であるHELを種々の濃度のdeoxycholic acid (DCA) とともに48時間培養し、dye-uptake法により%生存率を求めた。アポトーシスの検出はTUNEL法を用いた。同様の検討をGST-π特異的阻害剤(TER199)や非特異的阻害剤(エタクリン酸)を用いて行った。一方、F344ラットにazoxymethaneを投与した後、TER199を3週間連日腹腔内投与し、6週後の全大腸のACF数を算出した。【結果】HELはDCA 100μM以上の高濃度において濃度依存性に生細胞数の減少が認められた。HEL細胞をDCA 300μMで処理した後、TUNEL法によりアポトーシスの有無を検討したところ、19.5%にアポトーシスが認められた。一方、HEL細胞をTER199またはエタクリン酸にて処理し、GST-πの活性を阻害したところ、それぞれ36.9%と48.5%にアポトーシスが認められた。TER199を投与したラットの平均ACF数は5.7個であり、対照群(14.3個)に比べて有意に低下していた。【結語】GST-π特異的阻害剤により、二次胆汁酸により誘導されるアポトーシスが増強することが示され、GST-πは二次胆汁酸により誘導されるアポトーシスを抑制 することが示唆された。GST-π特異的阻害剤の投与により、in vivoにおいてACFの形成が有意に抑制 され、GST-πが大腸癌発癌過程の初期、つまりACFの形成に重要な役割を果たすことが示された。