ABSTRACT 115(4-4)
X染色体不活化を利用したヒト胃腸上皮化生腺管のクローナリテイの解析:野村幸世、江角浩安 (国立がんセ・研・支所・がん治)
Clonal analysis of intestinal metaplastic glands using X-chromosome inactivation: Sachiyo NOMURA, Hiroyasu ESUMI (Inv. Treat. Div., Natl. Cancer Ctr. Res. Inst., East.)
[目的]がんはモノクローナルな増殖をした細胞集団であることが知られている。腸上皮化生は胃分化型腺癌と関連を有することが報告されてきた。腸上皮化生が直接的前癌病変であれば、モノクローナルな増殖を呈している可能性がある。今回、我々は腸上皮化生腺管のクローナリテイをX染色体不活化を用いて検索したので報告する。
[方法]X染色体に連鎖したHUMARA (Human Androgen Receptor) 遺伝子はCAGリピートの長さの違いによる遺伝子多型を有するとともに、女性の不活性化したX染色体上でのみ、特定のCpG siteのメチル化を受けることが知られている。国立がんセンター東病院にて切除された女性の担癌胃3険体より遊離した腸上皮化生単一腺管より抽出したDNAをメチル化sensitiveな制限酵素HpaIIにて処理した後にこのsiteとリピートとを含む部位をPCRで増幅し、各腺管がモノクローナルな細胞集団か否かを検索した。
[結果]単一腸上皮化生腺管は不完全型で少なくともその58%がポリクローナル、完全型で少なくともその38%がポリクローナルであった。また、同じクローナルタイプのモノクローナルな腺管のみを3腺管以上有する径6mmの粘膜領域は存在しなかった。
[結論]腸上皮化生はモノクローナルに拡大する腫瘍性病変ではないと考えられた。また、我々が昨年報告したマウスの正常胃腺管が発生段階においてはその70%以上がポリクローナルであることより、腸上皮化生腺管は消化管腺管の発生初期段階に留まり、多分化能を保持している可能性があると考えられた。