ABSTRACT 217(5-3)
非相同的DNA組換えを契機とした一連のcascadeによる乳がんの発生-組織型決定モデル:津田 均、 財部テル子、 広橋説雄 (国立がんセ・研・病理)
A cascade model of breast cancer genesis and morphology-determination, based on non-homologous DNA recombination: Hitoshi TSUDA, Teruko TAKARABE, Setsuo HIROHASHI (Pathol. Div., Natl. Cancer Centr. Res. Inst.)
[目的] 乳癌にて第16染色体を巻き込んだ"非相同的DNA組換え"が高頻度に起きていることが示された。DNA組換えを軸にした乳がん発生、組織型決定のモデル作成を試みた。[方法] 乳癌174例につきFISH法を用いて3点(16cen、q11、q24)間のシグナル数の差異により16q切断を、16cenのシグナル数により異倍体を、16cen/q11と1q 12とのシグナル融合により1;16融合を各々検出し、これらの変化の相互関連及び組織形態との関連を解析した。[結果] 16qの近位切断(16cen-q11)52例中43例(83%)で第16染色体は異倍体であったが、遠位切断(16q11-q24)51例では二倍体の方が多かった(p<0.001)。1;16融合は16q近位遠位切断例共約50%の例に見られ、同陽性例の75%が非浸潤癌、乳頭-管状浸潤性乳管癌ないし浸潤性小葉癌であったが、遺残第16染色体断片が1q以外と融合したと考えられた1;16融合陰性例は88%迄が充実〜索状型浸潤癌であった。[考察] 1;16融合における切断点がα-ないしβ-サテライト配列領域付近であり組み換えのhot spotであること、同領域にて化学発がん剤投与後異染色体pairingが高頻度に起きること、meiosisの過程では染色体交叉の近・遠位の差がその後の染色体分配に影響を及ぼすことを併せ考えると、細胞内で異染色体間のDNA組換えを契機としてその部位の近・遠位によりその染色体の数が決まり、同時に1;16融合その他の組換え体が形成され、それらの型によってある特定の異型度・組織型をもった腫瘍細胞が生成されるという短期間内の一連のcascadeにおける乳がん発生-組織型決定モデルが考えられた。