ABSTRACT 303(5-10)
大腸腫瘍におけるp53遺伝子不活化の機序: 菅野康吉1,藤田 伸2,深山紀子1,谷口高広1,関谷剛男3,垣添忠生4(1国立がんセ・中央病・臨床検査,2国立がんセ・中央病・外,3国立がんセ・研・腫瘍遺伝子,4国立がんセ・中央病)
Mode of p53 gene inactivation in colon neoplasm: Kokichi SUGANO1, Shin FUJITA2, Noriko FUKAYAMA1, Takahiro TANIGUCHI1, Takao SEKIYA3, Tadao KAKIZOE4 ( 1Dept. Clin. Lab., Natl. Cancer Ctr. Hosp.,2Dept. Surg., Natl. Cancer Ctr. Hosp.,3Oncogene Div., Natl. Cancer Center Res. Inst., 4Natl. Cancer Ctr. Hosp.)
p53癌抑制遺伝子(以下p53と略す)の不活化の機序として、欠失と突然変異のどちらが先行するかを検討した。欠失の検出は従来法では、腫瘍細胞が50-60%以上含まれる試料でなければ困難である。また、多型マーカーとp53の物理的距離が離れている場合、p53周囲の微小欠失が検出されない場合も考えられる。これらの問題点を克服するため、Blunt-End SSCP法によりp53内部の三ヶ所の多型マーカーを用いてLOHを解析した。本法は組織中に含まれる腫瘍細胞が5-10%程度でもLOHの解析が可能であり、PCR/SSCP法による点突然変異検出と同等の感度を有する。大腸腺腫33例、大腸癌91例について解析した結果、点突然変異は大腸腺腫3%、大腸癌48%に認められたのに対して、LOHは大腸腺腫18%、大腸癌76%と有意に高率であった。またp53のコドン175と248の変異は大腸癌におけるp53変異の約25%を占めると報告されている。これらの部位についてEnriched PCR/Non-RI SSCP法によるp53変異の高感度検出を試みた。コドン175および248の変異はp53欠失が認められた大腸癌33.3%に検出されたのに対して、欠失を認めなかった症例では9.1%と有意に低率であった。また欠失を認めない大腸腺腫30例では変異は一例も認めなかった。以上の結果より、p53の不活化におけるfirst hitは遺伝子欠失であると考えられた。