ABSTRACT 328(5-12)
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肝発がんにおけるDNAメチル化異常:金井弥栄,回愛民,孫琳,牛島抄織,坂元亨宇,津田均,広橋説雄(国立がんセ・研・病理)

Aberrant DNA methylation in hepatocarcinogenesis:Yae KANAI,Ai-Min HUI,Sun LIN,Saori USHIJIMA,Michiie SAKAMOTO, Hitoshi TSUDA,Setsuo HIROHASHI(Pathology Division,National Cancer Center Research Institute)

ヒトがんにおけるDNAメチル化異常は、染色体構造の変化や遺伝子発現の異常を惹起すると考えられている。我々は従来、第16染色体におけるDNAメチル化異常が前がん状態において高頻度に認められ、肝細胞がんの臨床病理学的因子とよく相関することを報告し、ヘテロ接合性喪失の誘因のひとつとなる可能性を示してきた。今回、肝発がんにおけるDNAメチル化異常の意義の解明を進めるため、DNAメチルトランスフェラーゼ (EC 2.1.1.37) mRNA発現を検討した。前がん状態にあると考えられる慢性肝炎ないし肝硬変を呈す非がん肝においてDNAメチルトランスフェラーゼ発現は正常肝に比し有意に上昇し、肝細胞がんにおいては慢性肝炎ないし肝硬変に比しさらに上昇する傾向が見られた。つづいて、プロモーター領域のDNAメチル化亢進ならびにp53遺伝子変異によって不活化されるがん抑制遺伝子HIC-1 (Hypermethylated in cancer)が位置するD17S5 locusにおけるDNAメチル化の状態と、HIC-1 mRNA発現を検討した。DNAメチル化亢進は慢性肝炎ないし肝硬変を呈す非がん肝の44%に検出され、メチル化の程度ならびにメチル化亢進の頻度 (90%)は肝細胞がんにおいて慢性肝炎ないし肝硬変に比し有意に亢進していた。HIC-1発現は慢性肝炎ないし肝硬変を呈す非がん肝において正常肝に比し有意に低下し、肝細胞がんにおいては非がん肝に比し有意に低下していた。野生型p53遺伝子を発現する肝細胞がんにおいても、D17S5 locusにおけるDNAメチル化亢進に伴ってHIC-1発現が低下することが確かめられた。DNAメチルトランスフェラーゼ発現亢進を伴うDNAメチル化異常は、ヘテロ接合性喪失の誘因のひとつとなりあるいは特定の遺伝子の発現異常を介して、肝発がん過程に比較的早期から寄与する可能性があると考えられた。