ABSTRACT 377(7-2)
 一般演題一覧 トップ 


新規転移抑制物質 urinary trypsin inhibitor の細胞外マトリックス形成抑制作用:小林 浩、平嶋泰之、大井豪一(浜松医大産婦)

An anti-metastatic agent, urinary trypsin inhibitor, efficiently inhibits extracellular matrix formation: Hiroshi KOBAYASHI, Yasuyuki HIRASHIMA, Hidekazu OHI (Dept. Of Obstet. and Gynecol., Hamamatsu Univ. Sch. of Med.)

(目的)我々はヒト羊水および尿より強力な癌転移抑制物質を抽出、精製し、urinary trypsin inhibitor (UTI)と同一物質であることを報告してきた。このUTIはin vitroおよびin vivo実験によりマウス癌細胞のみならず、ヒト癌細胞(卵巣癌、大腸癌、メラノーマ、乳癌、前立腺癌)に対しても優れた転移抑制効果が得られた。今回、このUTIの生理活性作用、特に細胞外マトリックス形成抑制作用と細胞内シグナル伝達調節作用について検討した。(方法)1) UTI結合蛋白質の同定のために、UTI affinity columnの作成、2)ヒアルロン酸とUTIの結合実験のためELISAの作成、3)ヒアルロン酸とUTIをFITC標識して共焦点レーザー顕微鏡による細胞内取り込み実験を行った。(結果)1) UTIは癌細胞のみならず正常線維芽細胞および卵巣顆粒膜細胞にも結合し、UTI結合蛋白として軟骨細胞に豊富に存在するlink proteinが同定された。2) UTIはlink proteinと直接結合するが、ヒアルロン酸に結合できない。しかし、link proteinはヒアルロン酸に結合するので、細胞膜上ではヒアルロン酸ーlink proteinーUTIが3量体として存在することが推定された。この事実はそれぞれの蛋白質を精製し、ELISAによる結合実験で確認した。3) UTIを線維芽細胞に添加するとヒアルロン酸細胞外マトリックスが消失した。4)ヒアルロン酸とUTIは約1時間でそれぞれ細胞内に取り込まれ、 PKC活性を抑制することにより細胞内シグナル伝達を調節していることが推定された。(結論)UTIは単なる蛋白分解酵素阻害物質ではなく、細胞外マトリックスの形成や、細胞内シグナル伝達を調節する生理活性物質であり,広く生命現象に関与している。