ABSTRACT 641(15-1)
良性膵疾患の膵液中K-ras 突然変異の意義と問題点: 中泉明彦,上原宏之,竹中明美,石川治,大東弘明,竜田正晴(大阪成人セ), 菅野康吉(国立がんセ)
Frequent K-ras gene activation in pancreatic juice from the patients with benign pancreatic diseases: Akihiko NAKAIZUMI, Hiroyuki UEHARA, Akemi TAKENAKA, Osamu ISHIKAWA, Hiroaki OHIGASHI, Masaharu TATSUTA (Osaka Medical Ctr.), Koukichi SUGANO (National Cancer Ctr.)
【目的】良性膵疾患でもK-ras突然変異が認められるとの報告が相次いでおり,その膵癌診断における意味が問い直されている.一方膵液中K-ras突然変異陽性の良性疾患を膵癌のhigh risk群とする意見もある.今回我々は良性膵疾患の膵液中K-ras突然変異を分析しその意義と問題点を検討した.【対象と方法】(1)1994年から4年間に膵疾患を疑い内視鏡的に膵液を採取し,膵液中K-ras点突然変異をenriched PCR-SSCP法とdirect sequence法にて分析した. 症例の内訳は膵癌40例,慢性膵炎13例, 膵嚢胞32例,膵管拡張15例,正常対照18例である. (2)このうちの良性疾患19例は膵液中K-ras突然変異を平均14.5カ月の間隔で複数回分析した.【成績】(1)K-ras突然変異の陽性例は膵癌80%,慢性膵炎54%, 膵嚢胞56%,膵管拡張47%,正常対照22%に認めた. 慢性膵炎,膵嚢胞,膵管拡張の主な変異型は膵癌のそれと同様であった. (2)19例中6例は変異型は変わらず,2例でK-rasの新しい変異型が付加され, 6例は変異が消失または減少し,5例は変異が変化した. 経過中に膵癌を発症した例はなかった.【結語】(1)膵液中K-ras突然変異は膵癌の診断に有用とは言えない. (2)膵液中K-ras突然変異陽性の良性疾患が膵癌のhigh risk群か否かの確定には更に多数例の長期的検討が必要である.