ID:A01794-00010-10497
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第15回全国介護老人保健施設香川大会

一瞬でも輝ける時間(とき)

○三原美紀1,錦織勉1,竹内道子1,石原由紀子1,影山久美子1,澤和幸子1,須田京子1,村田幸治1

1社会福祉法人ひまわり福祉会 ナーシングセンターひまわり)

【はじめに】
 不穏・不安を訴え徘徊し、また時として精神的不安定になる施設入所者は少なくない。しかしふとしたきっかけから、不安そうな険しい表情が生き生きとした表情に変わる時がある。
 今回は歌によって一瞬でも生き生きと、輝く姿が見られた2名の入所者の事例を報告する。

【事例紹介】
~事例1~
K・T氏 84歳 女性
要介護度 4  痴呆レベル 4
傷病名:パーキンソン病  甲状腺機能低下症  パニック障害
ADL:食事 粥・キザミ食(自立)
     排泄 紙パンツ+小パット 定時トイレ誘導(失敗、失禁有り)
     移動 歩行器使用

【入所後の経過】
 当初は帰宅要求、家族・知り合い等への電話要求、入浴拒否、食事拒否が多く不穏も伴い、布団や窓へ向かっての独語、幻覚・妄想があり、精神的不安定の程度が大きかった。
 入所2日目には歌を口ずさんだり、レーザーディスクの歌を聞き穏やかにしておられる時があり、歌に興味がある事が分かった。ある日には脱力状態、活気無くベッドに伏せている時でも歌が聞こえてくると自ら行事に参加される日もあった。その為、歌会には必ず声掛けを行った。歌集を渡すと、楽しそうに居室で見ている姿も見られた。
 入所後約3、4ヶ月を過ぎた頃には自分からお化粧、服装の要求が聞かれ始めた。綺麗にお化粧をすると少し照れくさそうな笑みをされ、服に関しては明るく派手なものを希望された。
 歌会では積極的に「岸壁の母」「りんごのうた」「星影のワルツ」「港町十三番地」「柔」「シナの夜」等を歌われたが、特に美空ひばりの歌を好んで歌われ、美声を披露される。レーザーディスク内に収録されている曲は、ほとんど歌うことが出来、その姿はK・T氏が全ての主役のようで、歌い終わった時の拍手には満面の笑みをされた。K・T氏の歌う姿から職員も曲を覚え一緒に歌ったり、ある時は歌の指導をされたりと、職員とのコミュニケーションも深まっていった。
 また他の入所者へ自分から話しかけたり、ホールでは笑顔で過ごされる日も多く見られるようになり、入所当初からの不穏・帰宅要求は続いていたが、精神的不安定は緩和されてきた様子が認められる様になった。

~事例2~
M・R氏 86歳 女性
要介護 4  痴呆レベル 3b 
傷病名:老人性痴呆  
ADL:食事 普通食(自立)
    排泄 紙パンツ+小パット 定時トイレ誘導(失敗、失禁有り)
    移動 独歩

【入所後経過】
 当初は帰宅要求、通帳・お金に関する訴え、自分がこれからどうして良いか分からないとの訴えが多く、徘徊もあった。夜間にも同じような訴えが聞かれ、なかなか寝付けない時もあった。 
 しかし、入所後すぐに民謡(炭坑節、関の五本松、貝殻節、安来節)を歌われ、次第に自ら「歌でも歌うかね?何でも歌うよ」と手拍子を付け、これらの民謡を歌われるようになった。歌の最後には片手を上げて、「オーイ!酒持って来い」とはやし声も付く陽気な姿は周りの入所者をも楽しく和まされ、笑顔の輪が広がっている。M・R氏は明るい性格で、昔もこのような光景で歌っておられたのだろう、ホール全体の空気はとても柔らかなものになっていった。
 だが不安な表情をし、度々職員への帰宅要求、お金の心配、不穏の訴えは現在も続いている。

【まとめ】
1.歌は時代の背景を映し出すとともに歌い継がれていくもの。たった1つの歌でも気分を和ませ、人々の表情を180度変えさせる偉大なものであると感じた。職員の働きかけと数人の入所者が作り出す歌の雰囲気が、周囲の入所者へも広がっていく心地良い連帯感は、まさに至福の時である。その歌を自由に好きな時に歌える温かく、ソフトな雰囲気作りは必要不可欠であると考えられた。
2.今回挙げた2名の入所者の不穏、不安、帰宅要求は変わらず続いている。それらを減らし、無くすことが理想であるだろう。しかし私達は、それらの不穏全てを受け止めた中から、たとえ短時間で消えてしまうとしても、一瞬でも生き生きとした輝く姿、満足感のある笑顔を入所者の方々から引き出す働きかけを続けて行くことが大切であると考えている。 

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