ID:A01794-00016-10028
論文・抄録の閲覧申し込みについては こちら をご参照ください。
アクセス制限の仕組みについては こちら をご参照ください。

≪ご留意事項≫
現在、学会誌(論文誌)の抄録本文、論文本文は本文そのものについては、この検索画面では参照できません。
本文そのものをご参照される場合には、 一般公開検索画面、 または、 登録者用検索画面 TOPより【学会誌(論文誌)等 】の学会誌別検索画面をご利用ください。


第21回全国介護老人保健施設大会 岡山

プールでの水中運動による認知症改善への挑戦(第一報)

○一之瀬弘夫

1介護老人保健施設 アクアピア新百合)

【はじめに】当施設は平成19年に神奈川県川崎市麻生区黒川に開設した。入所定員150名、通所定員53名(要介護53名、要支援18名)である。プールスタッフは常勤職員3名、非常勤職員3名からなる。楽しく行うことをモットーに水中運動を実施している。水中運動は水圧の効果による全身の血流量の向上が図れることや、歩行などの運動機能改善の効果があると言われている。実際に以下の活動プログラムを実施していく中で、ご利用者にどのような変化があったかをアンケートと聴取による調査を行った。【活動プログラム】・ 上下肢の可動域改善運動・ バランス運動・ 水中歩行・ リラクゼーション・ ゲーム形式運動【プール利用者へのアンケート調査】要介護者75名(要支援者44名)に対して、下記項目について5段階の評価をお願いした。加えて各自の具体的な生活面での変化を聴取した。調査項目は以下に記す。カッコ内の数値は要支援者の割合を表す。1)体力など身体に変化はありましたか。疲れにくくなったと感じている→51.5%(40.9%) 変わらないと感じている→45.5%(27.3%) 2)気持ちに変化はありましたか。とても明るくなった又は明るくなった→54.5%(75.0%) 変わらない→33.3%(25.0%) 3)睡眠に変化はありましたか。よく眠れる又は眠れるようになった→48.5%(43.2%) 変わらない→51.5%(56.8%) 4)具体的な意見・腕の可動域が広くなった。(74歳 男性 介1) ・車椅子への移乗が出来るようになった。(74歳 女性 介3) ・転ばなくなった。(78歳 女性 介1) ・足の動きが良くなった。(84歳 女性 介1) ・持久力がついてきた。(49歳 男性 介2) ・水着などの準備を自分でするようになった。(72歳 女性 介2) ・生活リズムが改善された。(80歳 男性 介3) ・風邪をひかなくなった。(60歳 男性 介1) ・友達が出来た。(76歳 女性 介3) ・表情が明るくなったと言われた。(69歳 男性 介2)【事例紹介】1)A様 男性 58才 要介護3 脳梗塞後遺症 失語症 プール利用歴1年6ヶ月【主な変化】回数を重ねる毎に、発話が増えて冗談も言うようになる。以前はにやりとする程度であったが、声を出して笑うまでになった。【経過】H21.6:水中でジャンプが出来るようになったと笑顔がみられる。H21.8:自ら泳いでみたいと希望され、浮き具を使用し背泳ぎ行う。運動に意欲的になる。H22.2:運動中に声を出して笑う。右手が頭の上まで上がる。発話が増え、冗談も言うようになる。H22.3:プールがきっかけで仲良くなった他利用者とプール以外の時間にも一緒に過ごすようになる。2)B様 男性 70才 要介護3 パーキンソン病 腰椎圧迫骨折 プール利用歴2年【主な変化】プール開始当初は単語レベルであった歌が、続けて歌えるようになった。疾患による表情の乏しさが当初強かったが、笑顔が増えた。歩行機能の改善も見られている。【経過】H19.9:シャワーキャリーで入水し、水中では手引きにて歩行を行う。H19.11:水中で独歩になり体操にも積極的に参加する。H21.11:プール内では気持ちよく歌が歌え「気持ちに余裕が出来る」との発言も聞かれる。H22.2:歩行で入水出来るようになる。H22.3:更衣室からの移動も手引き歩行になる。3)C様 男性 75才 要介護1 アルツハイマー型認知症 腰部脊柱管狭窄症 プール利用歴 1年6ヶ月【主な変化】当施設利用開始当初から考えるとプールでの運動をきっかけに生活意欲の向上・改善がみられ、またフロアでの歩行が以前よりスムーズになるなど身体機能面にも向上が見られた。【経過】H21.2:フロアでは何度も持ち物を確認するなど落ち着きがなく、プールも拒否されることが多くある。表情の変化も乏しい。H21.3:徐々にプールに入るようになり、プール内で他利用者とコミュニケーションを取り始め、少しずつではあるが笑顔が見られる。 H21.8:自ら水に浮きたいと希望され、浮き具を使用すると「こんなの初めてだ」と非常に喜ばれる。水中での体操にも積極的に参加する。H22.2:フロアでも積極的に歌を歌ったり、体操に参加したりプール以外の事にも意欲的になる。【考察】今回の結果から、水中運動がご利用者に様々な良い影響を与えている事が窺い知れた。陸上のリハビリとは異なるプログラムを実施することで、「歩行など今まで出来なかった運動が出来たことにより喜びや達成感が得られる」「プールという非日常的な環境による解放感や安心感から笑顔や会話が自然と多くなる」などのご利用者の声も聞かれる。また、その他に「前向き」「意欲」「希望」などの言葉が多く聞かれることから、水中運動の効果は単に運動機能の向上だけではなく、活動性の向上や生活意欲の向上にも大きく関与しており、認知症改善に大きな効果が期待できるのではないだろうか。神経心理学的観点から有酸素運動がワーキングメモリーを司る前頭前野の機能を高める報告や、複数の研究での有酸素運動が認知面向上に寄与するという報告がある。当施設で行われている水中での運動は有酸素運動が主であるため、認知症の改善の効果への期待は一層高いと思われる。今後も身体機能の改善はもとより、生活意欲の向上や有酸素運動の特性などの水中運動のメリットを活かして、心身両面における水中運動の有効性を示し、認知症(短期集中)リハビリとしての活用方法や評価方法の検討を施設全体の取り組みとして継続していきたい。

Keywords: キーワードは登録されておりません


前に戻る | ホームページへ戻る

ご要望はこちらの問い合わせフォームにご入力ください。


Released Ver.0.4.0