ID:A01794-00016-10241
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第21回全国介護老人保健施設大会 岡山

重度失語症者へのコミュニケーションカード導入の試み

○上田舞1,川口泉1,岸本直人1,上月泉1,鈴木幸恵1,赤峰恵里1

1介護老人保健施設 うらら)

【はじめに】
重度失語症,意欲低下著明で進行性非流暢性失語(以下PA)に類似する症状の症例を担当した.言語機能,コミュニケーション能力向上に向け,書字訓練やコミュニケーションノート(以下ノート)を用いたが,実用的ではなかった.そこで,選択肢を絞ったコミュニケーションカード(以下カード)を,会話場面で使用した結果,言語聴覚士(以下ST)や他職種との会話・交流機会が増加し,コミュニケーション意欲に変化を認めたので若干の考察を加えて報告する.
【症例紹介】
77歳男性 介護度;2 趣味;囲碁
既往歴:右前頭葉梗塞後遺症(H15年) 嚥下障害(H20年) パーキンソン病(H20年) 高血圧
MRI所見:両側前頭葉,側頭葉に脳萎縮,海馬・扁桃体の萎縮,脳室拡大を著明に認め,右前頭葉に陳旧性の脳梗塞巣を認めた.
※発語困難,意欲・自発性低下著明,注意持続困難を認め,画像所見と臨床症状より前頭側頭葉変性症の1つであるPAに類似すると思われた.
〔神経心理学的所見〕
言語:言語標準失語症検査(SLTA);失語症タイプ)純粋運動性失語・超皮質性運動性失語混合型 中等度~重度
実用コミュニケーション能力検査(CADL);総得点87/136点/一部援助コミュニケーションレベル
認知:レーヴン色彩マトリックス検査(RCPM);21/36点
失行:発語失行検査;発語失行 重度 口部顔面失行認めず
<言語症状>理解面:簡単な日常会話で,ほぼ了解可能.
表出面:非流暢な発話で音の歪みやよどみ,発語失行,自発話はほぼ認めず意思伝達困難.単語レベルでの書字が可能.単語カードでは,うなずきや指差しによる返答が良好.簡単な質問に対しては,「yes-no」の意思表現が可能.
<周囲とのコミュニケーション能力>本を見たり,お茶を飲んだりと一人で過ごす.他者の話しかけに,返答は乏しい.
【カード導入前の経過】
言語機能,コミュニケーション能力向上に向け,書字訓練やノートを用いたが改善は認められなかった.ノートは,日常生活で使用する項目毎に複数選択肢を設けたが,実用性に欠けた.
【問題点】発語困難,注意持続困難,意欲・自発性低下,動作の停止,コミュニケーションや訓練意欲減退,会話頻度減退・相手の限局
【目標】「yes-no」での意思表出確実性の向上,会話・交流機会増加
【方法】「はい-いいえ-わからない」を記した3択カードを導入.他職種に言語症状やカードを用いたコミュニケーション方法を説明し,使用を促した.
<会話方法の説明>
1.興味・関心のある話題や,短く簡単な内容で「yes-no」で返答可能な質問を提示する.
2.本症例に視線を合わせて,ゆっくりと話しかける.
3.返答を急かさない.反応が得られなくても再度問いかけたり,よりわかりやすい言葉で言い換える.
【カード導入後の経過】
職員は,スケジュールに沿った会話場面でカードを使用するようになった.送迎の際に,職員がカードを示しながら「おはよう,元気?」と挨拶を行うと,「はい」を指差して返答し,時には「おはよう」の発語を認めることもあった.また,趣味の囲碁の時には,職員が「勝負をしませんか?」「楽しかったですか?」などとカードを示して話しかけると,満面の笑みを見せ,指差しでの会話が持続した.
このように,他職種とカードを用いたスムーズな会話が可能となり,時には,発語を認めたり,驚きや戸惑いの表情を見せるようになった.また,多くの職員が本症例に頻回に話しかけることで,カードを使用した会話が徐々に定着してきた.
【考察】
本症例は,重度失語症,注意持続困難,自発性・意欲低下著明から言語での意思表出は乏しい状況であった.そのため,発語に替わる代償手段として書字や複数選択肢を提示するノート等を用いたが,実用的手段になり得なかった.しかし,訓練場面では,興味・関心の高い事柄であれば,うなずきや指差しによる「yes-no」の意思表出が可能であった.このことから,本症例の会話・交流機会増加には,確実な「yes-no」の意思表出を常時行なえる手段の検討が必要と考えた.
そこで,「はい-いいえ-わからない」と記したカードを導入した結果,本症例と職員でカードを用いた会話が行えるようになった.
カードを用いた会話が行えるようになった理由として,以下の要因が考えられる.
1.堀田は,コミュニケーションボードは,あらかじめ用意された文字を指差すことによって相手に情報を伝えるもので,重度失語症にも適応しやすいと述べている.また,小嶋らはノートの活用には精神機能,コミュニケーションに対する積極性などの要因が関与し,あらかじめ選択肢が用意しやすいカテゴリーであることが適していると述べている.これらから,重度失語症で注意持続困難な本症例にとってカードは,探索行動が容易で,意思表示も行いやすく有用であったと考えた.
2.他職種に対しては,本症例への会話方法の説明を行い,使用方法やカード必要性の理解を深めたことで,会話場面において適切に使用できたと思われた.
3.STは,本症例の能力に応じた意思表出手段の検討や会話場面の設定を行い,他職種に対してはその説明や使用の促しを行ったことで,カードを用いた会話の定着に繋げることができた.
また,スムーズにカードを用いた会話が可能となったことで会話・交流機会が向上し,本症例の表情での表出が増加した。そして,本症例と他職種にとってコミュニケーション意欲向上を認め充実感,満足感の共有ができたと考えられた.
【まとめ】
発語や書字,ノート使用能力に限界を認める本症例にカードを導入し,ST,他職種との会話・交流を促した.意思を表したカードを導入した結果,会話機会が増加し,コミュニケーション能力の向上に繋がった.
今回,カードが有効であったが,今後も改良を重ね,施設や家庭での生活場面に応じたカードを導入していくことが重要であると考える.また,反応に応じた対応方法の検討を他職種とすすめ,本症例が職員,利用者,家族と充実したコミュニケーションを図れるよう環境調整を行い,連携を取っていくのがSTの役目と考える.

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