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第21回全国介護老人保健施設大会 岡山

「おうちを訪問して気がついたこと」

○上田聖子

1介護老人保健施設 多摩すずらん)

(1)はじめに
 在宅の御利用者様のリハビリテーション評価は通所御利用時に施設内で行う事が常であり、経験年数の少ない自分は機能回復を優先して考え、自宅での生活動作への思慮が少なかった。しかし今回自宅訪問や介護者教室で御家族と話す機会を得て、また御利用者様の生活状況を実際に見る機会を得ることで改めて気付かされることがあった。
 今後の自分がリハビリテーションプログラムを計画する上で、自宅での生活状況や御利用者様自身の気持ちをもっと汲み取っていくべきと考え、ここにまとめる。

(2)事例紹介・経過
Kさんの場合(片麻痺、糖尿病など/妻・娘夫婦と同居)
 「部屋の中でいつも足を引きずって歩いている」と、家族が心配しているとのケアマネージャーからの相談があり自宅同行訪問した。Kさんはベッドから起き上がる際に日常的に過剰な力を入れており、その影響で麻痺側の下肢を突っ張り引きずって歩いていた。
 通所リハビリでのKさんは、プラットホーム上で手すりが無くてもスムースに起き上がられ、その後の歩行では引きずりは見られない。しかし自宅では手すりに足をかけて起き上がるため、麻痺側の筋緊張が高まり歩き方に悪影響を及ぼしていた。リハビリでは装具無しでの立ち座りの練習は行っていたが、歩行練習は装具着用して行っていた為、今後は家庭に合わせて装具無しでの立位・歩行練習を増やすと共に、施設で行っている動作を自宅でも常に行うように促す事とした。

Hさんの場合(胸椎圧迫骨折など/息子と同居だが日中独居)
 Hさんは他者への気遣いが強い方で、本音を聞き出すのに苦労したケースである。
 立ち上がりや歩行でのふらつきが強いHさんが手すり取り付けを希望しているとの相談をケアマネージャーから受けて訪問した。
 1.浴室への出入り部分への手すり
 2.玄関から外門への3mの移動部分の手すり
 3.便座からの立ち上がり時の手すり
 上記1~3を取り付ける相談するが、1.2に関しては家族と本人から希望ありスムースに話が進んだ。しかし3は本人が家族の邪魔になりたくないと遠慮して手すりの希望を言い出せない様子で、PT側から迷惑にならない手すりの位置を提案する事で取り付ける話が進んだ。
 また以前からシルバーカーで買い物や散歩に行きたいという希望があったが家族には遠慮して言わず、サービス担当者会議で屋外歩行の希望をPTが家族に伝えようとするとHさんは屋外歩行の希望を否定された。しかしその後の訓練時には「内緒でひとりで病院へ行って家族に怒られた」と言われた。
 Hさんは家族に心配や迷惑をかけたくないという気持ちが強く、屋外散歩の希望など本音を家族に話されない傾向があった。しかし行動力があるため今後もひとりで外出されて転倒される可能性があった。そこで再度御家族に相談したところ一緒に散歩を始めてくださり、リハビリでも屋外歩行練習を行う事で生活の質の向上を目指した。

Yさんの場合(パーキンソン病など/独居)
 バランス障害が著しくつかまり歩きがやっとの状態で、注意力低下もあり自宅にて転倒を繰り返されており屋外歩行はひとりでは困難。病識は低く食事摂取量も少なく、軽く物忘れがあり薬の場所を忘れてしまう事があった。しかし元来外出が好きな方で社交的だったため、障害を持ってからも知人と共に外出する機会を常に持たれていた。
御本人から自宅に来て欲しい、一緒にごはんを食べて欲しいという希望があり、
 1.転倒原因、住環境整備の確認
 2.屋外応用動作評価
という目的で自宅訪問し、移動動作のみではなく服薬管理の状況や地域の方とのコミュニケーションなど生活関連動作を含めて評価するため、飲食店への外出に同行した。
 Yさんの場合、自宅環境を見て転倒の具体的な問題点を見つけ、栄養・服薬管理などの現状を知る事ができた。また外出や外食を好まれる生活に合わせ、実際に乗り物やお店での動作を見る事で施設外での状況を知り、安全で効率的な動作練習を検討する機会を得た。

 始めて参加した介護者教室では、安全な移乗動作のテーマに対し、御家族が一番知りたがっていたことは転倒時の起こし方であった。転倒した御利用者様から「早く起こして」と言われて無理な体勢で無理矢理起こそうとし、御家族自身が腰などを痛めてしまい「この先、起こす自信がない」との発言も聞かれた。転倒時には「その場ですぐに、家族が頑張って起こさなければならない」という意識が御家族にも御利用者様にもある事がわかった。
 しかし介護側の負担が多いと、いずれは介護者自体が精神や身体を壊して生活が成り立たなくなる恐れがあるため、
 1.床からの立ち上がりの練習機会をリハビリで作っていく
 2.御本人や御家族だけで頑張ろうとせず、近所の方やケアマネージャー、施設スタッフ、救急隊などの社会資源の利用をアドバイスする
等が、PTの役割であると考えた。

(3)考察
 介護老人保健施設でのリハビリテーションは、日常生活動作を自立して行えるようにする事が重要課題であり、日常必要とされる動きを分析し、さらに自宅での応用動作ができるよう工夫してリハビリを行わなければならない。さらに「できる事」を「日常的にしている事」へとつなげる事が大切である。そのため実際の生活状況をリハビリテーション計画書や連絡ノートで御家族と情報交換する事、必要に応じて自宅訪問し生活状況を確認する事などから訓練につなげ、カンファレンス等の場面でも実生活に活かせる指導を行わなければならない。
 これらは通所に限らず入所施設御利用者様にもあてはまる。介護老人保健施設は病院と自宅との中間施設であり、介護老人保健施設でのリハビリテーションは単に身体機能や動作能力の改善を目指すのではなく、本来の目的である在宅復帰のためのリハビリテーションがとても重要であると改めて感じた。

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