ID:A01794-00019-10525
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第24回全国介護老人保健施設大会 石川 in 金沢

「ごはーん」という訴えを大切に

○下平達也1,平沢康弘1,三串伸哉2

1飯田市立病院介護老人保健施設 ゆうゆう,2東京医科歯科大学高齢者歯科学)

【はじめに】
「食べる」ことは、栄養摂取のための重要な行為であると共に、基本的な欲求でもあり、楽しみでもある。今回認知症およびパーキンソン病による摂食・嚥下障害から胃瘻造設となった利用者に嚥下内視鏡検査(以下VE検査)を施行した。他職種が協力し、本人の要求と家族の希望を支え、楽しみとしての経口摂取を再開・継続できたため報告する。
【事例紹介】
■事例:69歳 女性
■病名:コルサコフ症候群(66歳)、パーキンソン病(67歳)、アルコール依存症(61歳)
■本人・家族の思い:本人「ご飯が欲しい」家族「少しでも動けるようになってほしい。自分で出来ることがあると嬉しい。」
■初回入所時の様子:「ごはん」「おしっこ」の訴えが多い。簡単な意思疎通は困難。健忘症状あり。食事は全粥、副菜キザミ。食事開始10分は自力摂取。嚥下に努力を要し顔面筋の緊張亢進。その他ADL動作は全介助。四肢の動きは協調性に欠け、突発的。姿勢保持のために四肢の緊張を過剰に高めていた。アライメント不良あり右股亜脱臼・体幹の変形みられた。静的坐位保持可、立位は介助にて下肢の支持性は感じられた。レク体操時に車椅子上にて手を動かし参加する場面が見られた。
【経過】
■初回入所 121日間(VE検査1回目 入所後87日目)
誤嚥の可能性あり、肺炎のリスクが高いためVE検査を実施。結果は、咽頭残留・不顕性誤嚥あり、喀出力低下、唾液の貯留の存在などの指摘を受けた。家人へ状況を説明し、食事について検討。内容は、介助にて摂取、一口量の統一、ミキサー食1/2量で補助食品を添加し、姿勢はリクライニング45°位とした。ゼリーは塊で誤嚥し窒息のリスクが高いため、水分ゼリーを中止し代わりにトロミ茶へ変更、食前後での吸引の実施などの対応をした。特に誤嚥性肺炎の兆候は見られず、食形態、姿勢、注意点などの情報提供と共にVE検査結果を添えて次施設へ申し送った。
■退所~再入所するまでの期間 101日間
次施設(A施設)でも経口摂取を継続していたが、発熱・低酸素出現し肺炎治療のためにB病院へ入院。ST評価を受け、経口摂取困難と判断され、胃瘻造設。その後A施設へ戻り、食事は経管栄養のみとなった。
■再入所 172日間(VE検査2回目 入所後46日目)
発語なく首振りにてYES/NOの意思表示可能。経管栄養時、胃瘻チューブを自己抜去の危険性あり、車椅子に乗車、食堂で監視下にて注入した。本人は周囲の様子を察し「ごはん」と発語が聞かれた。B病院で関わったSTの再評価を受けると、前回評価時(胃瘻造設前)より顔面、全身の緊張が落ちており、楽しみ程度の経口摂取は再開出来そうという判断が得られた。家族の了解の下、お茶の時間にトロミ茶より開始し、VE再評価を実施。検査結果より楽しみ程度の経口摂取は可能と判断された。内容は介助にてミキサー食を提供、一口量がティースプーン1杯で複数回嚥下とし、トロミ茶との交互嚥下、姿勢はリクライニング45°位とした。また、肺炎予防として、食前後の口腔ケアと食後の吸引も併用し、食時間は15分で提供した。しかし、経過の中で肺雑音が目立ち、経口摂取は一旦中止となった。その間、閉眼したまま手を挙げて呼ぶ仕草や、タオルを床に落とすなど注意を引く行動が激しくなった。それに伴い発語はないが、ご飯を要求する仕草が続いた。1ヶ月ほど経過を見る中で、スタッフ間で話し合いを繰り返し、昼食のみ経口摂取を再開した。その後誤嚥性肺炎の兆候はなく経過したが、退所まで発語は聞かれず、常に閉眼している状況であった。
【PTとしての関わり】
リラクゼーションが得られるように臥位・座位姿勢をスタッフへ伝達。リハ場面では徒手的に介入。また、粘調痰の増加時には体位ドレナージを実施、呼吸機能維持のために深呼吸やハフィングを促した。適宜ポジショニングの変更を実施。間接訓練は拒否的であったため頸部・顔面筋のマッサージ・呼吸機能維持中心の関わりとなった。嚥下の直接訓練として、経口摂取を通じ、筋緊張の調整、飲み込みのタイミングなど注意しながら実施した。
【結果】
肺雑音の聴取、粘調痰の貯留の多い時期もあったが、食前後の口腔ケア、ポジショニング、呼吸機能維持を並行して実施することで誤嚥性肺炎を起こすことなく経口摂取を継続可能であった。経口摂取継続の中で、排泄の訴えが出始め、トイレでの排泄援助が可能となるなどADL場面での改善がみられたと同時に、認識できなかった家族の事が分かる様になり、家族の訪問の楽しみとなった。胃瘻造設後2回目のVE検査時、前回より嚥下機能の改善がみられた。一方で、経口摂取を再開し、継続できたが、一時的に聞かれた発語やトイレでの排泄は継続できず、能動的な言動・行動は減少した。
【考察】
誤嚥性肺炎のリスクが高く、胃瘻造設された利用者が経口摂取を再開し、継続することができた。これは、他職種で協働し、経口摂取する条件(食形態、一口量、交互嚥下等)を検討、統一しスタッフ間で周知・実施する事や、食前後の関わりとしてスタッフによる口腔ケア、吸引、臥位・坐位でのポジショニングを継続する事などの管理によるものと考える。また、安全に食べ続ける事自体が肺炎に対する一つの大きな予防であり、結果、利用者の希望に沿い、満足度の向上につながった。これらの身体的・精神的な改善により発語が増え、排泄動作などADL場面の向上にもつながり本人の能動性向上にまで波及したと考える。一方で経口摂取の再開・中止を繰り返したことで、利用者を困惑させる結果となり、注意を引く行動が見られたり、発語が聞かれなくなったりしたのではないかという意見も聞かれた。施設間での情報共有も含め、安全な経口摂取維持に関して更なる検討が必要と考え、今後の課題としていきたい。

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