ABSTRACT 852(P2-1)
ヒトチオレドキシン/ヒト成人T細胞白血病由来因子(hTRX/ADF)によるエプスタイン・バールウイルス(EBV)複製の抑制:曽野弘士1,2、勅使河原計介3、前田裕弘2、金丸昭久2、淀井淳司1(1京大・ウイルス研・生体応答、2近大・医・3内、3京大・放生研・晩発)
Suppressive effect of human thioredoxin/ATL-derived factor(hTRX/ADF) on replication of Epstein-Barr virus(EBV):Hiroshi SONO1,2, Keisuke TESHIGAWARA3, Yasuhiro MAEDA2, Akihisa KANAMARU2, Junji YODOI1(1Inst. Virus Res., Kyoto Univ., 23rd Dept. Int. Med., Kinki Univ. Sch. Med., 3Dept. Late Effect, Rad. Biol. Ctr., Kyoto Univ.)
[目的] hTRX/ADFは、抗酸化因子として細胞内酸化・還元(レドックス)状態を制御することにより、細胞機能調節に深く関わっている。また、HTLV-1やEBV感染細胞株において、hTRX/ADFの高発現が知られており、その持続感染成立や感染細胞の不死化(癌化)に、レドックス制御が重要な役割を果たす可能性がある。今回我々は、ウイルスの致死的な増殖感染(lytic phase)と持続感染(latent phase)とを区別できるEBV感染細胞株を用い、EBV複製へのhTRX/ADFの影響を検討した。
[方法/結果] 1)r-hTRX/ADFを、培養に加えることによってRaji細胞およびB95-8細胞のTPAによるlytic phaseでのEBV複製およびウイルス蛋白合成を著明に抑制する。
2)この効果は、latent phaseでの制御されたEBV複製に関しては影響が認められない。
3)hTRX/ADFは、致死的なウイルス増殖によるRaji細胞の細胞死を阻害する。
[考察] 今回の結果より、EBVの持続感染・感染細胞不死化へのhTRX/ADFの関与が強く示唆された。EBVはlatent とlytic phase とで異なる複製起点(Ori-PとOri-Lyt)を有し、各々EBNA-1およびZEBRAにより開始される。既に様々な転写因子の活性化がレドックス制御を受けることが報告されており、hTRX/ADFが、AP-1 familyであるZEBRAのOri-Lytを介した致死的複製機構を選択的に制御していると考えられる。今後、その標的分子の確定と共に、他のウイルス感染細胞株でも同様の役割を果たす可能性を検討したい。