ABSTRACT 1214(P4-9)
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酪酸によるヒト肝癌細胞の分化誘導におけるカルシニュウリンの関与:斎藤英胤,海老沼浩利,中村光康,若林寛二,金子文彦,石井裕正(慶大・消内)

Role of calcineurin in the differentiation of human hepatoma cells induced by sodium butyrate: Hidetsugu SAITO, Hirotoshi EBINUMA, Mitsuyasu NAKAMURA, Kanji WAKABAYASHI, Fumihiko KANEKO, Hiromasa ISHII (Dept. of Internal Med., Sch. of Med., Keio University)

我々はヒストンデアセチラーゼ阻害剤である酪酸にヒト肝癌細胞に対して分化誘導作用があることを報告してきたが、その機序は未だ明かではない。白血病細胞の分化では カルシウム/カルモデュリン-依存性リン酸化酵素であるカルシニュウリン(CN)が重要な機能を持つとされている。そこで今回、酪酸による肝癌細胞の分化誘導におけるCNの関与を検討した。ヒト肝癌細胞HCC-M, HCC-T, HepG2に対する酪酸の作用を増殖、細胞周期の面から検討し、p21WAF-1, p53, CNの発現変化をWestern blotにて解析した。またCNの機能をみるためにCN活性阻害剤であるcyclosporin A (CyA)、FK506を用いた。酪酸は容量依存性に肝癌細胞の増殖を抑制し、細胞の形態は細長い紡錘状に変化し、正常肝細胞の形質が付加されていった。増殖抑制に伴いG1期の細胞が増加し、p21WAF-1の発現増加が認められたが、p53の変異やその発現には有意な影響はなかった。CyA、FK506は単独では肝癌細胞の増殖、細胞周期、形質に影響せず、酪酸との同時投与によりその作用を部分的に抑制したが、十分量でも酪酸の作用を完全に抑制はしなかった。これらの細胞ではCNの発現がみられ、酪酸添加によりその発現は増加したが、CyA, FK506はこの発現を抑制した。検討した肝癌細胞に対する酪酸の分化誘導作用の一部は、CNの発現亢進により引き起こされることが判明した。