ABSTRACT 1344(P5-3)
大腸癌細胞におけるTPA刺激により誘導されるJNK/SAPK活性化の変異Ki-rasによる抑制:奥村 幸司,白澤 専二,笹月 健彦(九大・生医研・遺伝)
Activated Ki-ras suppresses TPA-induced JNK/SAPK activation in human colon cancer cells : Koji OKUMURA, Senji SHIRASAWA, Takehiko SASAZUKI (Dept. of Genet., Med. Inst. Bioreg., Kyushu Univ.)
[目的]ヒト大腸癌においては、Ki-ras遺伝子の変異は約50%に検出されるが、この生物学的意義については未知の部分が多い。我々はこれまでに、Ki-rasのGly13Aspの変異を持つ大腸癌細胞株HCT116とその変異Ki-rasを遺伝子標的法を用いて特異的に欠失させたクローンを利用することにより、変異Ki-rasがTPA刺激によるc-jun遺伝子の発現誘導を抑制することを報告してきた。今回、その分子機構の詳細を解明することを目的とした。[方法]解析にはGly13Aspの変異を持つ大腸癌細胞株HCT116、DLD-1およびそれらの変異Ki-rasを遺伝子標的法を用いて欠失させたクローンを利用し、血清非存在下で24時間培養後、TPA、UV刺激を行いMAPK関連のシグナル伝達物質の活性化を中心に解析を行った。[結論]TPA刺激により変異Ki-rasを持つ大腸癌細胞では、JNKの活性化及びその上流にあるSEK1の活性化は認められなかったが、変異Ki-rasを欠失させたクローンでは明らかにSEK1/JNKの活性化が観察された。一方、UV刺激では変異Ki-rasの存在の有無に関係なくJNKの活性化は誘導された。以上の結果より、変異Ki-rasは大腸癌細胞においてTPA刺激により活性化されるSEK1/JNKのシグナル伝達経路を特異的に抑制することが示唆された。