ABSTRACT 1373(P5-5)
造血器腫瘍細胞の細胞遺伝学的ならびに分子生物学的研究(76報) 新しい転座融合遺伝子TEL-TrkCの構造と局在:江口真理子1,石前峰斉1,久藤しおり1,田中公夫1,森下和廣2,佐藤裕子3,東條有伸4,浅野茂隆4,鎌田七男1(1広島大・原医研・分子細胞遺伝,2国立がんセ・研・生物,3国立医療セ・研・難治研,4東大・医科研・内科)
Structure and localization of the novel TEL-TrkC fusion gene in acute myeloid leukemia with t(12;15)(p13;q25):Mariko EGUCHI1,Minenori ISHIMAE1,Shiori KUDOH1,Kimio TANAKA1, Kazuhiro MORISHITA2,Yuko SATO3,Arinobu TOJO4,Shigetaka ASANO4,Nanao KAMADA1(1Dept.Cancer Cytogenetics, Res. Inst. for Rad Biol&Med., Hiroshima Univ.,2Biol. Div.,Natl. Cancer Center Res. Inst., 3Div. of Intractable Dis., IMJC Research Inst.,4Dept.of Hematol/Oncol., Inst. of Med. Sci., Tokyo Univ.)
【目的】染色体12p13に位置するTEL/ETV6遺伝子は様々な造血器腫瘍でその関与が指摘されている。我々は成人AML症例に新たなTEL関連転座t(12;15)(p13;q25)を見いだし、キメラ遺伝子の構造を決定しキメラ蛋白の局在を同定した。【方法】症例は59才、女性。頚部リンパ節腫脹にて発症、AML(M2)と診断された。染色体解析では48,XX,add(6)(q27),+8,inv(12)(p13q15),add(15)(q25),+add(15)(q25)を認めた。TELの5'領域に位置する179A6および3'領域に位置する148B6コスミドプローブを用いて患者白血病細胞のFISH解析を行い、12p13上の転座切断点の同定を行った。また白血病細胞よりcDNAライブラリーを作成、TEL cDNAプローブを用いてTEL遺伝子とのキメラクローンの検出を行った。【結果】FISH解析では179A6のシグナルは2個のder(15)(q25)上に、148B6のシグナルはder(12)(q15)上に認められ、TEL遺伝子の関わる12p、12q、15q間の複雑な転座が想定された。患者白血病細胞のcDNAライブラリーからTEL-TrkCの融合遺伝子を同定した。TEL上の転座切断点はHLH領域の3'側(nt487,intron 4)にあり、TrkCのnt1741と融合遺伝子を形成していた。RT-PCR解析ではTEL-TrkC融合遺伝子は検出されたが、TrkC-TELは検出されなかった。Trk抗体を用いたウエスタン解析では60kDaの異常バンドを認めた。免疫染色では本来細胞質分画に存在するはずのTrkC蛋白が白血病細胞では核内に認められた。【考察】t(12;15)においてTELと融合遺伝子を形成していたTrkCはneurotrophin-3の受容体としてクローニングされ、神経系細胞に強い発現が認められるが造血器細胞ではほとんど発現していないと考えられている。t(12;15)によりTELのHLH domainがTrkCの tyrosine kinase domainに融合したキメラ蛋白が産生されると考えられるが、これが蛋白同士の異常なdimerizationを引き起こし、リガンド非依存性のkinase活性を有するようになることが腫瘍化と関与している可能性が示唆される。