ABSTRACT 1443(P5-9)
 ポスターセッション一覧 トップ 


ヒト細胞におけるX線照射および野生型p53蛋白質誘導による老化様形質の発現:鈴木啓司,児玉靖司,渡邉正己(長崎大・薬・放生命)

X-irradiation and wild-type p53 expression induce senescent-like phenotypes in normal human cells and human tumor-derived cells: Keiji SUZUKI, Seiji KODAMA, Masami WATANABE (Lab. Radiat. Life Sci., Facl. Pharm. Sci., Nagasaki Univ.)

【目的】多くの癌細胞で欠失あるいは変異しているp53機能の細胞増殖制御における役割を明らかにするため、X線照射したヒト正常細胞あるいは野生型p53蛋白質を誘導させたp53欠失癌細胞で、細胞周期停止にともなう細胞老化プロセスの発現について検討した。
【材料と方法】正常ヒト胎児由来細胞及び癌細胞は10%FBSを含むMEM培地中で培養し、放射線はX線発生装置により照射した。p53蛋白質の発現はウェスタンブロット法により検討し、老化様形質はSA-β-galの発現を指標にして調べた。
【結果と考察】X線照射された正常ヒト細胞ではp53蛋白質が増加・活性化して細胞周期が制御されるが、線量に依存して不可逆的に分裂を停止する細胞が出現し、これら細胞では細胞老化に特徴的なマーカーであるSA-β-galの発現が確認された。一方、p53遺伝子を欠失した肺非小細胞癌(NCI-H1299)に野生型p53遺伝子を組み込んだエクダイソン誘導ベクターを導入してp53蛋白質を誘導したところ、p53蛋白質の発現に依存したG1期あるいはG2期での細胞周期の停止が観察された。さらにこれら細胞でもSA-β-galの発現が確認されたが、その頻度はX線照射によりさらに増加した。
以上のことから、p53機能による放射線照射後の細胞周期制御は、老化プロセスを誘導するものであることが明らかにされた。また、癌細胞で消失しているp53機能を回復させることにより癌細胞の細胞周期が制御され、その結果癌細胞に不可逆的な老化プロセスが誘導されることを見い出した。