ABSTRACT 2004(P9-1)
 ポスターセッション一覧 トップ 


HGFからみた慢性腎不全の 発症機構とその 治療: 水野信哉1, 松本邦夫1, 黒澤 努2, 中村敏一1(阪大・医・バイオセ1, 動験2

An insight into molecular pathogenesis of chronic renal failure from the aspect of HGF, and its therapeutic intervention: Shinya MIZUNO1, Kunio, MATSUMOTO1, Tsutomu KUROSAWA2, Toshikazu, NAKAMURA1 (1Biomed. Res. Center, 2Inst. Exp. Anim. Sci., Osaka Univ. Med. School)

【目的】慢性腎不全は腎線維化に伴う腎機能低下を特徴とする難治性の疾患であり, その発症にはTGF-βの過剰発現が関与する. 一方, HGFは尿細管上皮細胞に対し、増殖促進、管腔形成誘導, 抗アポト−シス活性など, TGF-βとは相反的な生物学的活性を有し, 腎再生因子として機能する.今回、慢性腎不全の発症機構をHGFを中心に解析した.
【方法と結果】ICGNマウスはヒトの慢性腎不全と同様の経過を経て, 腎不全を発症する. ICGNマウスの腎不全の進行に伴い, 腎組織のTGF-βレベルが上昇し, それと一致して筋線維芽細胞の過形成, 線維成分の蓄積, 尿細管アポトーシスが上昇した. これに対し, 腎組織のHGFレベルはTGF-βレベルと相反的に減少し, 腎機能低下と一致した.すなわち, TGF-βの発現上昇と相反するHGFレベルの低下が腎不全発症につながると予想された. この仮説に基づき,HGFに対する中和抗体を投与したところ, TGF-βレベルの上昇, 腎線維化, 腎機能不全が短期間に引き起こされた.これに対し, 内因性HGFの低下を補うべく, リコビナントHGFを投与したところ, TGF-βレベルの低下に加え, 線維成分の減少, 尿細管アポトーシスの低下, 腎代償性肥大の促進がみられ, 腎機能の改善が認められた.
【考察】TGF-βの発現増加と相反するHGFレベルの低下が慢性腎不全の発症・進行の引き金となる一方, HGF補充が慢性腎不全の治療につながると考えられる. 私達はHGFが肝硬変や肺線維症に対して強い改善効果を持つことを報告しており, TGF-βとHGFを両極とするシーソーバランスが線維性疾患の病態をコントロールしていると考えられる.