ABSTRACT 73(4-1)
Evi-1 遺伝子産物による Smad3 の不活化の分子機構: 黒川峰夫1, 三谷絹子1, 矢崎義雄1, 松本邦弘2 平井久丸1(1東大・医・3内, 2名大・理・分子生物)
The Evi-1 Proto-oncoprotein Is a Nuclear Inhibitor of Smad3: Mineo KUROKAWA11, Kinuko MITANI1, Yoshio YAZAKI1, Kunihiro MATSUMOTO2, Hisamaru HIRAI1 (13rd Dept. of Internal Medicine, Fac. of Medicine, Tokyo Univ., 2Dept. of Molecular Biology, Fac. of Science, Nagoya Univ.)
Evi-1 遺伝子は zinc finger 構造を持つ核内蛋白質をコードし、ヒトの染色体の 3q26上に存在する。 Evi-1 は t(3;21)、t(3;12)、t(3;3)、inv(3) 転座型白血病において活性化を受け、ヒトの造血細胞の悪性化に深く関わる遺伝子と考えられている。我々は Evi-1による白血病発症機構の一つとして、昨年の本学会で Evi-1が transforming growth factorβ(TGFβ) の増殖抑制シグナルを抑制し、その抑制が TGFβの細胞内情報伝達分子である Smad3を不活化することによることを報告した。今回、我々はさらに解析を進め、 Evi-1による Smad3の不活化の分子機構の詳細を明らかとした。 Smad3はリガンドによって活性化された TGFβ受容体によってリン酸化され、 Smad4と複合体を形成した後、核内に移行し、標的遺伝子の発現の調節に関わることが知られている。この Smad3の活性化過程において、 Evi-1 は受容体による Smad3のリン酸化や Smad4との結合、核内への移行を阻害しなかった。一方 TGFβ刺激によって Evi-1 と Smad3の結合は増強し、 Evi-1は核内に移行してきた Smad3 に結合すると考えられた。また Smad3-Smad4 複合体は TGFb の標的遺伝子の一つである plasminogen activator inhibitor-1のプロモーター領域の特定の配列に結合することが知られているが、実際に Evi-1はこの複合体の DNAとの結合を阻害することが判明した。このように Evi-1 は核内で Smad3と結合し、その転写制御因子として機能を阻害することにより、 TGFβのシグナル伝達を抑制することが明らかとなった。