ABSTRACT 159(4-8)
MST/MLK2によるJNK/SAPK活性化の分子機構と生理機能:平井秀一,大野茂男(横浜市大.医.2生化)
Molecular mechanism and physiological function of the JNK activation by MST/MLK2: Syu-ichi HIRAI, Shigeo OHNO (Dept. Mol. Biol., Yokohama City Univ. Sch. Med.)
JNK/SAPKは転写因子Jun/AP1の活性調節などを介して細胞の増殖、分化、アポトーシスの制御に関わるMAPキナーゼ関連酵素である。我々はこの酵素の活性調節の分子機構を明らかにすることを目的とし、これの上流で機能するタンパク質リン酸化酵素を検索した結果、Mixed Lineage Kinase (MLK)と呼ばれる一群のセリンスレオニンキナーゼがJNKの活性化を誘導することを見いだし、これまでに報告してきた。MST/MLK2は、このMLK関連酵素の一つであり、細胞内で高発現させることにより種々のMAPキナーゼ関連酵素を活性化するが、中でもJNKの活性化を強く誘導する。レコンビナント酵素を用いた実験結果より、MST/MLK2はJNKをリン酸化して活性化する二種類のMAPキナーゼキナーゼ、SEK1、MKK7の双方をリン酸化、活性化するMAPキナーゼキナーゼキナーゼであることが明かとなった。ただし活性化の効率はSEK1に比べてMKK7に対する方が著しく高いものであった。胃癌、大腸ガン等由来の細胞株でMST/MLK2の高い発現が見られることが加藤、寺田等(国立がんセンター)により報告されていることから、MST/MLK2-JNK経路は癌細胞の増殖に関与することが考えられる。またマウスの胚における発現をin situハイブリダイゼーションにより検索した結果、終脳、脊髄をはじめとする神経系の他、肝臓の細胞に発現が認められたことより、これらの細胞の増殖、分化、アポトーシスへの関与が考えられるようになった。