ABSTRACT 160(4-8)
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チロシン特異的脱リン酸化酵素のMAPキナーゼへの結合とその不活性化:大洞将嗣1,緒方正人1,小杉厚2,濱岡利之1(阪大・医・1バイオセ・腫瘍発生、2保健学科)

A protein tyrosine phosphatase, which associates with and inactivates MAP kinases: Masatsugu OH-HORA1,Masato OGATA1,Atsushi KOSUGI2,Toshiyuki HAMAOKA1 (1Biomed. Res. Ctr., and 2SAHS., Osaka Univ. Med. Sch.)

【目的】MAPキナーゼ(MAPK)は、細胞の増殖や分化に重要な役割を果し、その恒常的な活性化はがん化に結び付く。MAPKは、MEKなど上流のキナーゼでスレオニンとチロシンがリン酸化されて活性化され、逆にMKP (MAP kinase phosphatase)と呼ばれるdual specificity phosphataseで両方のアミノ酸が脱リン酸化され不活性化される。これまで哺乳動物のMAPKの不活性化に、MKPとは異なるチロシン特異的な脱リン酸化酵素(PTP)が関与するか否かは明らかでなかった。今回、我々がクローニングしたPTPの標的分子を検索し、MAPKファミリーに属するERK1がこのPTPと結合すること、さらにこのPTPが、ERK1のリン酸化の抑制を介してMAPKカスケードを負に制御することを明らかにした。
【結果と考察】酵素活性を欠いた変異型のPTPをbaitとした酵母のtwo-hybrid systemによるスクリーニングでERK1を得た。次に、ヒト293T細胞内でもこのPTPとERK1やERK2が結合し共沈することを免疫沈降で確認した。この時、変異型だけでなく、酵素活性のある野生型PTPもERK1、ERK2と共沈した。さらに野生型PTPの過剰発現は、EGF刺激によるERK1のリン酸化と活性化をほぼ完全に抑制した。また、活性化型MEK1遺伝子を導入してERK1を直接リン酸化し活性化した場合にも、このPTPの過剰発現でERK1のリン酸化と活性化が抑制された。以上から、このPTPはERK1を基質とし脱リン酸化することでMAPKカスケードを負に制御すると考えられ、哺乳動物で新しい制御機構が存在することが示唆された。