ABSTRACT 167(4-8)
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Rhoシグナル伝達系における変異型K−rasの影響:○杉山賢司、江角浩安(国立がんセ、研、支所、がん治療開発)

Effect of activated K-ras on the Rho-dependent signal pathway: Kenji SUGIYAMA, Hiroyasu ESUMI (Investigative Treatment Div., Natl. Cancer Center Res. Institute East)

細胞のトランスフォーメーションは細胞の増殖と形態変化という二つの形質で定義づけられる。発がん遺伝子であるRas遺伝子はMAPキナーゼを活性化する経路で遺伝子発現を制御すること、そして、RhoファミリーG蛋白を介して細胞の骨格や接着を制御することが知られている。しかし、その形態制御の機構には不明な点が多い。今回、変異型K−rasに依存した細胞形態変化の機構を知る目的で、血清因子による細胞骨格形成と変異型K−rasの関係を検討した。
コドン12がバリンまたはアスパラギン酸のヒト変異型K−ras(K-rasV12およびK-rasD12)遺伝子を導入したラットの肺線維芽細胞を0.1%血清下で培養すると、K-rasV12細胞は殆ど形態は変化しないが、K-rasD12細胞は30分以内に細胞が線状になり浮遊してきた。この形態変化は血清の再添加により数分以内に回復した。血清再添加の前に各種阻害剤を処理した結果、Racの活性化を阻害するPI3K阻害剤WortmanninやEGF受容体キナーゼ阻害剤AG1478では阻害しなかったが、チロシンキナーゼ阻害剤の一種Genisteinは血清による形態の回復を阻害した。また、この形態の回復はactin stress fiber (ASF)やfocal adhesion plaque (FAP)の形成による事がビンキュリンの抗体やファロイジンを用いて分かった。次いで、ASFやFAPを誘導する事が知られているリゾフォスファチジン酸(LPA)を血清の代わりに添加すると形態が回復した。上述の阻害剤のうちGenisteinのみがLPAによる形態回復を阻害した。これらの事から、変異型K-rasD12がより強くRhoを介したシグナル伝達経路に影響を与えることが考えられた。