ABSTRACT 213(5-2)
新しい癌転移関連シグナル伝達分子のクローニングとその臨床応用:田中真二1、上尾裕昭2、杉町圭蔵3、Jack R. WANDS4、森 正樹1(1九大生医研・外科、2大分県立病院・外科、3九大・第2外科、4Mass. General Hosp., Harvard Medical School)
Cloning of a cell migration-related signaling molecule and clinical significance: Shinji TANAKA1, Hiroaki UEO2, Keizo SUGIMACHI3, Jack R. WANDS4, Masaki MORI1 (1Dept. of Surg., Med. Inst. Bioregulation, Kyushu Univ., 2Dept. of Surg., Oita Prefectural Hospital, 3Dept. of Surg. II, Kyushu Univ., 4Mass. General Hospital, Harvard Medical School)
【目的】癌転移関連分子として同定された遺伝子は、しばしば発生期の細胞移動に関与していることが示されている。そこで我々はC. elegansの発生期細胞移動シグナルを規定する遺伝子mig-10のヒト相同遺伝子をクローニングし、大腸癌における発現解析及びそのシグナル伝達抑制を解析したので報告する。【方法】mig-10特異的配列を標的として、ヒト癌細胞で高発現している相同遺伝子をクローニングした。 次にその特異的抗体を用いて大腸癌臨床症例における発現と病理学的因子との関連を解析した。さらに、その機能の抑制分子の作製を試みた。【結果】癌細胞cDNAライブラリーより、mig-10相同遺伝子としてヒトGrb7遺伝子をクローニングした。Grb7蛋白質は、proline-rich部位, PH domainを含むMig-10相同性部位, SH2 domainから構成されている。Western blotにより大腸癌症例24例中9例(37.5%)にGrb7蛋白の高発現を認め、リンパ節転移陽性例に高い傾向が示された。さらにGrb7 SH2ドメイン分子の導入により、大腸癌細胞の浸潤能抑制が認められ、dominant negative効果を持つことが示された。【結語】細胞移動遺伝子mig-10と相同性をもつ新規シグナル分子Grb7は、大腸癌の転移予測因子となることが示唆され、そのシグナル抑制は癌遺伝子治療の新たなターゲットとなりうることが示された。