ABSTRACT 257(5-6)
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t(16;21) 白血病キメラ転写因子 FUS (TLS)-ERG による TR1、TR2 ドメインに依存した二種類の転写制御:市川仁,勝利恵子,大木操(国立がんセ・研・放研)

Transcriptional regulation by the FUS (TLS)-ERG chimeric transcription factor involved in t(16;21) myeloid leukemia:Hitoshi ICHIKAWA,Rieko KATSU,Misao OHKI (Radiobiol. Div., Natl. Cancer Ctr. Res. Inst.)

t(16;21)(p11;q22) 染色体転座は急性骨髄性白血病に見られる染色体異常であり、この転座の結果、RNA 結合蛋白質 FUS (TLS) の N 末側領域と ETS family 転写因子 ERG の DNA 結合ドメイン(ETS ドメイン)を含む C 末側領域から成るキメラ転写因子が産生される。このキメラ転写因子 FUS-ERG はマウス骨髄系細胞株 L-G の好中球への分化を阻害し、マウス繊維芽細胞株 NIH3T3 を形質転換させる活性を持つ。FUS-ERG の各種欠失変異体の解析の結果、ERG 由来の ETS ドメインは両方の活性に必須であるが、FUS 由来の N 末側領域は NIH3T3 に対する形質転換能に必要な TR1 ドメインと L-G に対する分化阻害能に必須である TR2 ドメインの二つの機能ドメインに分割できることが明らかとなった。我々は、mRNA differential display 等の方法を用いて FUS-ERG の標的遺伝子の探索を行い、FUS-ERG により発現の変動を受ける遺伝子を同定した。これらの発現変動は ETS ドメインを必要とし、granzyme B のように TR1 ドメインに依存して発現の変動するものと、G-CSF receptor のように TR2 ドメインに依存して発現の変動するものに分類された。以上の結果から、FUS-ERG による白血病化において、TR1、TR2 が独立の転写制御ドメインとして機能し、異なる遺伝子群を活性化もしくは抑制することにより、二つの異なる腫瘍化経路が同時に活性化されているものと考えられた。