ABSTRACT 291(5-9)
 一般演題一覧 トップ 


マウス大腸癌発生におけるβカテニンの役割:
伊藤正紀1.2 、石原悟3、月田承一郎3、寺社下浩一1、鈴木 操4、大野典也2、野田哲生1.51癌研・細胞生物、2慈恵会医大・悪性腫瘍、3京大・分子細胞情報、4熊本大・医・遺伝発生研、5東北大・医・分子遺伝)

Role of β-catenin on tumor formation in mice colon.: Masaki ITO1,2, Satoru ISHIHARA3, Shoichiro TUKITA3, Kouichi JISHAGE1, Misao SUZUKI4, Tsuneya OHNO2.5 and Tetsuo NODA 1 (1Dept. Cell Biol. Cancer Inst., 2Divi. Oncology, Jikei Univ. 3Dept. Cell. Biol., Kyoto Univ., 4Inst. Mol. Embriol. and Gen., Kumamoto Univ., 5Dept. Mol. Genet., Tohoku Univ. Sch. Med.,)

【目的】APC遺伝子やβカテニン遺伝子の変異がWntシグナル伝達系の活性化を介してヒト大腸癌の発生に深く関与しているとの報告が相次いでいる。そこで腫瘍発生における変異βカテニンによる上皮細胞の腫瘍化を直接的に証明するために、変異型βカテニンを強制発現するコンディショナル・トランスジェニックマウスの作製を試みた。【方法・結果】マウスにおいて強力かつ普遍的なプロモーターとして働くCAGプロモーターの下流に変異型βカテニン遺伝子を結合させ、その連結部位に、部位特異的組換え酵素Creの認識配列であるloxPで挟まれたpolyA付きGFP遺伝子(Green Fluorescent Protein)を挿入することにより、変異βカテニン遺伝子の転写、翻訳が起こらないようにしたコンストラクトを作製しトランスジェニックマウスを樹立した。これにより、体内の殆どの組織ではGFPを発現し、Creを作用させることにより、loxP配列で挟まれたGFP遺伝子が抜け、変異型βカテニンがCre発現細胞でのみ特異的に発現される事が期待される。変異型βカテニンは実際にヒト大腸癌で検出されるβカテニンの変異と同様な、GSK3β(Glycogen synthase kinase 3β)によるリン酸化部位のセリン、トレオニンをアラニンに置換したものを用い、さらにHAタグ(Hemagglutinin)を付与した。このマウスの胎児由来線維芽細胞においては、GFPの発現のみが認められ、次いでこの細胞にCreを発現させることにより、核に強いβカテニンの染色性が認められた。さらに、PCR法で計画通りの組換えが起こり、loxP配列で挟まれた領域が排除され、CAGプロモーターの直下流に変異型βカテニンが配置されている事を確認した。以上により組織、時期特異的に変異型βカテニンを発現するコンディショナル・トランスジェニックマウスが樹立されたと考える。現在、各種臓器にCreを発現させ、腫瘍の発生が見られるか検討中である。