ABSTRACT 840(P1-13)
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ヒト卵巣表層上皮の不死化細胞株の樹立と卵巣癌モデルの作成:新田愼1,片渕秀隆1,田代浩徳1,山泉克2,岡村均1(熊本大・1産婦人科,2分子病態部門)

Tumorigenesis of a new immortalized cell line from human ovarian surface epithelium: Makoto NITTA1, Hidetaka KATABUCHI1, Hironori TASHIRO1, Masaru YAMAIZUMI2, Hitoshi OKAMURA1 (1Dept. of Obstet. and Gynecol., Kumamoto Univ., 2Dept. of Cell Genetics, Kumamoto Univ.)

【目的】卵巣の上皮性悪性腫瘍の組織発生の解明を目的に,長期継代培養可能なヒト卵巣表層上皮(OSE)由来の細胞株を樹立し,これらの細胞株について,腫瘍形成能の検討を行った。【方法】患者の同意の下に医学的適応にて摘除されたヒト正常卵巣を材料とした。scrape method (Nakamura et. al, 1994)を用いてOSEの単離培養後,SV40ラージT抗原遺伝子を導入し7系統の不死化OSE細胞株を樹立した。これらの細胞性状について,免疫細胞化学的ならびに超微形態学的観察,ヌードマウス造腫瘍性などを検討した。【成績】得られた細胞は単層で敷石状に増殖し,免疫細胞化学的に正常OSEと同様の性格を示したが,細胞間のcontact inhibitionは保持されていなかった。細胞株のひとつは軟寒天内において高いコロニー形成能を示し,さらに,軟寒天培地上のコロニ−より樹立した細胞株のみがヌードマウスへの移殖によって,皮下および腹腔内での腫瘍形成が認められた。腫瘍は組織学的にシ−ト状の配列を示し,著明な核分裂像がみられ,免疫組織化学ではサイトケラチンが弱陽性であった。超微形態学的には腫瘍細胞間に強固な接着装置が見られ,細胞は不整な大型の核とクロマチンの凝集が観察された。【結論】われわれは新たなヒトOSE由来の細胞株を樹立することに成功した。これらはいずれも安定した増殖能を示す不死化細胞株であった。さらに,この細胞株はin vivoにおいて腫瘍形成能を示し,腹腔内移植ではヒト卵巣癌に類似した腹膜播種病巣を形成することより,これらの細胞株が卵巣癌の組織発生ならびに病態を解明するためのモデルとして有用であることが示された。