ABSTRACT 939(P3-3)
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ウシラクトフェリンの大腸発がん抑制の作用機序の検討:牛田吉彦1,関根一則1,久原徹哉1,高須賀信夫1,飯郷正明1,安田有利1,金大中1,朴哲範1,西野輔翼2,津田洋幸11国立がんセ・研・化学療法、2京都府立医大・生化)

Mechanistic analyses of chemopreventive effects of bovine lactoferrin on colon carcinogenesis:Yoshihiko USHIDA1, Kazunori SEKINE1, Tetsuya KUHARA1, Nobuo TAKASUKA1, Masaaki IIGO1, Aritoshi YASUDA1, Dae Joong KIM1, Cheol Beom PARK1, Hoyoku NISHINO2 and Hiroyuki TSUDA1 (1Exp. Pathol. & Chemother. Div., National Cancer Ctr. Res. Inst., 2Dept. Biochem. Kyoto Pref. Univ. Med.)

【目的】我々は、牛乳から得られるウシラクトフェリン(bLF:分子量約 8 万の糖タンパク質)がラット大腸の化学発がんに対し抑制作用を示すことを明らかにしてきた。その作用機序として、NK 活性の誘導、腫瘍細胞の増殖抑制などが示されているが未だ十分に解明されていない。家族性大腸腺腫症のモデルである APC 遺伝子変異マウス (Min マウス:C57BL6/J-Min/+)は腸管に自然発生腫瘍を多発し、これは抗炎症剤(NSAIDs)によって強力に抑制されることが知られており、その機序としてシクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害が考えられている。そこで今回は、Min マウスの腸管腫瘍形成に及ぼす bLF の作用について検討を行った。また、大腸発がんのプロモーターである胆汁酸に対する bLF の作用をラットを用いて調べた。
【方法】実験1:6 週令雄 Min マウスに bLF(0.2、2%)を混餌投与し、8 週後に腸管(小腸、大腸)に発生した腫瘍数を計測した。実験2:6 週令雄 F344 ラットに bLF(2%)を混餌投与し、4 週後の糞便中の胆汁酸量と組成を HPLC を用いて分析した。
【結果】実験1:対照群では、腸管の腫瘍数(小腸+大腸)は 53.5 個であったのに対し、2% bLF 投与群では 42.9 個(80%)と抑制傾向がみられ、空腸では対照群 18.8 個であったに対し、2% bLF 投与群では 12.8 個(68%)と有意な抑制(p<0.05)が認められた。実験2:総胆汁酸量は変化しなかったが、bLF 投与群の 10 例中 3 例で、細胞障害活性の強い二次胆汁酸の比率が減少していた(95→60%)。この変化は対照群では観察されなかった。
【考察】1.bLF は Apc 遺伝子の変異によって起きる腸管の腫瘍形成に対し抑制作用を示すことが明らかとなった。しかし、その程度は NSAIDs ほど強力ではなく、COX の阻害が bLF の発がん抑制の主要な機序ではないことが示唆された。2.bLF による二次胆汁酸の相対的減少が発がん抑制に寄与している可能性が示唆された。(がん克服新 10 か年戦略事業による)