ABSTRACT 1142(P4-6)
足場喪失に伴うアポトーシスに対するヒト子宮頚癌細胞の耐性:菊地慶司,森村茂,安本茂(神奈川がんセ・研・分子腫瘍)
Resistance to apoptosis and retention of cell adhesion and growth capability in human cervical cancer cells deprived of cell anchorage: Keiji KIKUCHI, Shigeru MORIMURA, Shigeru YASUMOTO (Lab. Mol.. Cell Biol., Kanagawa Cancer Ctr. Res. Inst)
【緒言】正常なヒト子宮頚部由来の扁平上皮細胞(NCE)は浮遊培養下で、培養基質に再接着する能力を失うとともに、カルシウムに応答してアポトーシス(DNA断片化を指標とする)を起こすようになる。これらは蛋白合成に依存した積極的な細胞の応答であり、基底膜を離脱した上皮細胞が最終分化あるいはアポトーシス(anoikis)にむかう不可逆的な過程の一部であると考えられる。細胞のがん化にはそれらに異常を伴うことが予想されるが、我々はこれをヒト子宮頚がん由来の細胞株を用いて検討した。
【実験材料と方法】NCE細胞は、重度の子宮筋腫のため摘出された子宮の正常な頚部組織から調製し、低(0.03mM)カルシウム濃度のMCDB153培地で培養した。ヒト子宮頚がん由来の細胞株SiHa、Caski、C33Aの培養はDMEM(含2mMカルシウム)で行った。浮遊培養は0.5%アガロースをコートしたディッシュ上で実施した。
【結果と考察】SiHaとC33A細胞については浮遊培養下で、カルシウムイオノフォアの添加によっても、アポトーシスの誘導は認めなかった。Caski細胞については、浮遊培養48時間でほぼ全ての細胞でDNA損傷が認められ、20%の細胞にアポトーシスに特徴的なDNA断片化が認められた。細胞をMCDB153培地で浮遊させても同様の結果が得られた。SiHaとC33Aは浮遊培養下でも接着能および再接着後の増殖能を保持していた。また、著しいDNA損傷を持つCaskiであっても接着能は保持しており、再接着後はほぼ全ての細胞がDNA損傷を修復しつつ増殖した。これらの結果は、1)一部のがん細胞は細胞接着の喪失によるアポトーシスに対して耐性を示すが、一部は感受性を残している、2)感受性を示すがん細胞でも、正常細胞とは異なり、浮遊培養下でも接着能を保持し、足場の回復とともにアポトーシスを回避/増殖を再開しうる、ことを示している。