ABSTRACT 1260(P4-11)
 ポスターセッション一覧 トップ 


MAPキナーゼ系の特異的遮断は幾つかのヒト癌細胞株に対して細胞死を誘導する:星野理香、河野通明(長崎大・薬・細胞制御)

Specific inhibition of the MAP kinase signaling pathway induces apoptotic cell death in several human tumor cell lines : Rika HOSHINO, Michiaki KOHNO (Lab. of Cell Regulation., Sch. Pharm. Sci., Nagasaki Univ.)

細胞内シグナル伝達系において中心的な役割を果たしているMAPキナーゼ (MAPK)の恒常的活性化と細胞癌化との関連について検討している演者らは、様々なヒト組織由来癌細胞株、及び手術摘出癌組織での解析より、多数の癌細胞においてMAPKの恒常的活性化を認め、またMAPK恒常的活性化の頻度にはある程度の臓器特異性(腎臓、大腸、肺などより由来した癌細胞では高頻度、一方、食道、胃、肝臓などより由来した癌細胞ではMAPKが顕著に活性化されている症例は少ない)があることを見出している。
今回は MAPK・キナーゼ (MEK)の機能を特異的に阻害することが報告されているPD98059を利用してMAPKカスケードを特異的に遮断した際、各癌細胞の増殖性などが如何に影響されるかを検討した。その結果、MAPK活性が顕著に上昇している癌細胞株において特徴的に、PD98059処理によってその細胞形態に大きな変化が引き起こされ、その増殖もほぼ完全に抑制された。さらにこれら癌細胞の周期動態に対する影響を解析したところ、PD98059添加後12時間以降よりG1期への集積が顕著に認められ、96時間後にはアポトーシス様の細胞死が誘導された。一方、MAPKの恒常的活性化が認められない癌細胞、及びヒト二倍体繊維芽細胞などに対しては、PD98059はさほど顕著な影響を与えなかった。これらの結果より、(i) MAPK活性が顕著に亢進している癌細胞株の増殖は確かにMAPKカスケードに大きく依存していること、(ii) このような癌細胞に対してはMAPK系を特異的に遮断する化合物が有効な抗癌剤となり得る可能性、が示唆された。