ABSTRACT 1625(P6-2)
癌細胞の新しいセレクチンリガンド、6−硫酸化シアリルLexの発現と生理的意義:井澤峯子1,隈元謙介1,光岡ちか子1,木村尚子1,玉谷卓也3,神奈木玲児1(1愛知がんセ・2病,2JT・探索研)
Significance of sialyl 6-sulfo Lewis X, a new selectin ligand on human cancer cells: Mineko IZAWA1, Kensuke KUMAMOTO1, Chikako MITSUOKA1, Naoko KIMURA1, Takuya TAMATANI2, Reiji KANNAGI1 (1Exp. Pathol., Aichi Cancer Ctr., 2Res. Lab., J-T Co. Ltd.)
我々は昨年、ヒトリンパ節HEVにおいては、通常のシアリルLexの発現がほとんどみられず、6−硫酸化シアリルLexが発現しており、これがL−セレクチンのリガンドとして機能していることを報告した。今回、同じ構造の6−硫酸化シアリルLexが、一部の上皮性癌細胞にも存在することをあらたに見出したので報告する。【方法】抗6−硫酸化シアリルLex抗体は昨年樹立したG152,G72抗体を用い、アシアロ型の6−硫酸化Lexに対する抗体を交えて、培養ヒト癌細胞における抗原発現をフローサイトメトリーにて解析した。さらに、シアリルLex・Lex系の諸糖鎖に対する一連の抗体(CSLEX-1, LeuM1, ACFH-18など)を対照に使用した。また、上皮性細胞における6−硫酸化シアリルLexの合成機序を解析するため、6−硫酸化活性を持つ細胞に、上皮性細胞に良く発現するフコシルトランスフェラーゼであるFuc-TIIIおよびFuc-TVIをトランスフェクトして、抗原の発現を解析した。【結果】(1)ヒト上皮性癌細胞株を広く検索したところ、大腸癌細胞株および乳癌細胞株において、6−硫酸化シアリルLexを発現するものを見出した。いずれの細胞においても、6−硫酸化シアリルLexは、通常のシアリルLexと共存していた。これらの陽性細胞株の6−硫酸化シアリルLexの発現は、シアリダーゼ耐性のものと、シアリダーゼにより消失するものとがあり、その構成の複雑さをうかがわせた。(2)Fuc-TIIIのトランスフェクト細胞においては、シアリルLexは有意に発現されたが、6−硫酸化シアリルLexの発現は極めて弱かった。またアシアロ体では、Lexが有意に発現されたが、6−硫酸化Lexの発現は弱かった。一方、Fuc-TVIのトランスフェクト細胞においては、シアリルLex・6−硫酸化シアリルLexがともに強く発現され、アシアロ体に関しても、Lex・6−硫酸化Lexがともに有意に発現された。【考察】以上から、癌細胞の一部には新しいセレクチンリガンド、6−硫酸化シアリルLexが発現されていることが判明した。この糖鎖は、上皮性細胞においては、主としてFuc-TVIによって合成されると考えられる。癌細胞におけるこの糖鎖の発現の意義についてさらに検討を進める予定である。