ABSTRACT 2040(P9-3)
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神経芽腫でのTRK-Bとそのシグナル伝達の解析:
杉本 徹、黒田啓史、堀井由博(宮崎医大・小児)

Signal transduction of TRK-B in human neuroblastoma:
Tohru SUGIMOTO, Hiroshi KURODA, Yoshihiro HORII
(Dept. of Pediatr., Miyazaki Medical College)

【目的】神経栄養因子(NGF、BDNF、NT-3とNT-4/5)と受容体(TRK-A、TRK-BとTRK-C)との関係が最近明らかになってきた。TRK-BはBDNF、NT-3、NT-4/5の受容体で、NBでのTRK-Bの発現は予後不良と関係しているらしい。今回、我々はNBでのTRK-Bとそのシグナル伝達を検討したので報告する。
【方法】NB株はSMS-KAN、KP-N-HN、NB-1と MP-N-TS (2歳8カ月男児、病期IVA、左副腎原発)の計4種を用いた。細胞株は4種の神経栄養因子(NGF、BDNF、NT-3と NT-4/5)で2〜60分間処理した。抽出蛋白はチロシン燐酸(TP)抗体アガロ−スを用いた免疫沈降法後、TRK-A、ERK-1、ERK-2、Shc、PLC-γ、crk抗体を用いたWestern blot法によりそれらのシグナル伝達にかかわる蛋白のTP化を検討した。また抽出RNAは、TRK-Bとc-fos mRNA発現の検討に用いた。
【結果】(1)4株の中でMP-N-TS株のみでTRK-B発現が陽性であった。このため以下の実験ではMP-N-TS株を用いた。
(2)BDNFとNT-4/5によ りMP-N-TS株の形態学的分化誘導は軽度可能であった。(3)核に至るシグナル伝達の解析では、BDNF、NT-3と NT-4/5により、TRK-B、Shc、ERK-1とERK-2蛋白のTP化がみられた。(4)これらのTP化はTRKのtyrosine kinase阻害剤 K252a で抑制された。(5)fos mRNAの発現はBDNF、NT-3とNT-4/5により強陽性となり、シグナルが核まで伝達されていることが明らかになった。以上より(6)TRK-Bを介するシグナルは、少なくとも ShcとMAP kinaseを介して、核内に伝達していることが判明した。
【考案】NBでのTRK-Bの役割はよく分かっていない。NakagawaraによるとN-myc増幅NB例にTRK-B発現がみられることが多く、TRK-Bは NBの分化のみならず増殖と関係している可能性が報告されている。NBでのTRK-Bとそのシグナル伝達の解析は、予後不良のNBの機序を理解するのに役立つと考えられる。