ABSTRACT 2042(P9-3)
トロンボポエチンによる増殖・分化誘導機構の解析:松村 到, 池田弘和, 北山 等, 金倉 譲(阪大バイオセ・血液・腫瘍内科)
The analysis on the mechanism of thrombopoietin-induced proliferation and differentiation: Itaru MATSUMURA, Hirokazu IKEDA, Hitoshi KITAYAMA, Yuzuru KANAKURA (Dept. of Hematol. and Oncol., Osaka Univ. Med. Sch.)
[目的]我々は、ヒトのIL-3依存性赤白血病株、F-36Pにthrombopoietin (TPO)受容体c-mpl を導入し (F-36P-mpl)、この細胞にLac-inducible systemを用いてdominant-negative (dn) 型変異STAT1、3、5、rasを各々発現させ、TPOの増殖・分化誘導機構について検討を行った。
[結果]F-36P-mpl 細胞は、TPOに対し一過性に増殖反応を示し、その後、成熟巨核球へと分化が誘導された。TPOによる増殖は、dn-STAT5とdn-rasによって各々約30%抑制されたが、dn-STAT1、3は、TPOによる増殖には影響を与えなかった。TPOによる分化誘導は、いずれのdn-STATsによっても阻害されず、dn-rasによってのみ阻害された。また、活性型 rasを発現させるとTPO非存在下において巨核球への分化が誘導された。活性型 rasの発現時間と分化誘導効果の関係を検討すると、巨核球への分化誘導には 活性型 rasが約24時間発現することが必要かつ十分であると考えられた。この結果に一致して、IL-3によるrasの活性化は一過性であったが、TPOは、rasを約24時間持続性に活性化した。TPO、活性型rasによる分化誘導時には、いずれの場合にも、D-type cyclinの持続性の発現とcyclin A、Bの消失によるcdc2活性の低下が認められた。cyclin D1、D2、D3、dn-cdc2を各々単独で発現させても分化は誘導されず、dn-cdc2をcyclin D1、D2、D3のいずれかと共発現させた場合にTPO非存在下においても巨核球への分化が誘導された。
[まとめ]TPOによる分化誘導には持続性のrasの活性化が重要であり、この際、D-type cyclin、cdc2などの分子が協調して作用することが必要であると考えられた。